便秘に○○が有効!?
今回は「便秘」のお話です。
内科診療をしていると、高確率で「便が出にくくて困っています」と言ったお悩みをお伺いします。
便秘症はこの10年ちょっとで使用可能な薬の選択肢が増え、治療の進歩と治療効果(エビデンス)の蓄積が進んでいます。
2023年7月には約6年ぶりにガイドラインが改訂され、『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』が発刊されました。
このガイドラインを元に、身近な便秘について、この機会にまとめなおしたいと思います。
便秘とは?とその分類
便秘は「本来出てくるはずの便が腸内にたまることで、便が硬くなったり、便の回数が減ったり、快適に排便できなくなった状態」です。
その結果、必要以上にいきんだり、残便感・排便困難感があったり、お腹の違和感のせいで日常生活や身体に支障をきたすようになります。
排便トラブルによってこういった症状が引き起こされることを「慢性便秘症」と言います。
慢性便秘症は原因によって2つのタイプに分類されます。
腸の機能が低下することで便秘になる「機能性便秘」と、何らかの原因で大腸の形自体が変化してしまうことで便秘になる「器質性便秘」です。
一般的な便秘の多くは機能性便秘と考えられています。
その他にも症状によって、便が出ない「排便回数減少型」と便が出せない「排便困難型」にも分けられます。
大腸は、口から入ってきた食べ物から水分やナトリウムを吸収しながら便を作ります。
しかし、腸の中が通りにくかったり、動きが悪かったりすると便はなかなか外に出ることができません。
その間に便の水分はどんどん吸収されるため、カチコチの便になってしまいます。
「排便回数減少型」はこのように、大腸の動きが低下し、便がうまく肛門まで送られなかったり、便が硬くなることで起こります。
また、便が形になって「直腸」という部分に到達しても、そこの感覚が鈍くなっているせいで便意をもよおさない場合もあります。
「排便困難型」はこのように便意が低下したり、便を出す力が弱くなったりして、便をうまく体の外に出せなくなることで起こります。
便秘になりやすい人
便秘症になりやすい人の傾向としては、「普段より運動量の少ない人」や「お腹の手術をしたことがある人」、「ご高齢の人」、「一部の便秘になりやすい薬を使っている人」などが挙げられます。
また、「過敏性腸症候群」という、不安やストレス、緊張を感じたときに起きる腸の症状も便秘を引き起こします。
新生活で環境が変わった際に便秘になる人はこれにあたります。
他にも、糖尿病や甲状腺機能低下症、パーキンソン病、脳梗塞後遺症、うつ病、統合失調症、消化管の悪性疾患、痔核などの病気も便秘の原因になります。
透析患者さんも便秘になりやすいことが知られています。
また、お薬の副作用で腸の動きが悪くなって便秘になることもあります。
例えば、麻薬系の鎮痛薬(モルヒネ)、鎮咳薬(コデインリン酸塩水和物)などはよく便秘になる代表的なお薬です。
その他にも、抗コリン薬(気管支拡張薬、鎮痛薬など)や抗ヒスタミン薬、向精神病薬、抗うつ薬、抗パーキンソン病薬、抗不整脈薬、利尿薬、鉄剤などでも便秘になることがあります。
自分の飲んでいる薬を見直してみることも重要です。
慢性便秘症の診断基準
慢性便秘症は、「便の形」や「排便回数」、「排便時のいきみ」や「残便感」、「排便困難感」などをもとに診断します。
便の形はブリストル便形状スケールを使って判断します
これは、イギリスのブリストル大学で 1997 年に開発された基準で、色や形によって便の状態を分類しています。
見た目で便秘の状態を評価できるため、ご自身の健康状態を把握する際にも役立ちます。
Type1,2だと便が硬く、肛門を傷つけるリスクが上がります。
Type3~5の間に便の形を整えていくことが目標です。
慢性便秘症の検査
医師の診察を受けて、必要と判断された場合は採血検査(貧血や糖尿病などの基礎疾患がないかの確認)や便潜血検査(大腸癌チェック)、腹部のレントゲン(腸が閉塞しかかっていないか)などの検査を行うことがあります。
50歳以上で急に便秘になった人や大腸癌の既往や家族歴がある人、便潜血が陽性になった人など、大腸癌のリスクが高い方には大腸内視鏡検査(大腸カメラ)をおすすめすることもあります。
こんな症状があったら要注意!
・今まで普通に出ていた便が急に出にくくなった
・血便が出ている(便に血が混じっている)
・半年以内で理由もなく体重が3kg以上減った
・熱が出ていたり関節の痛みがある
・お腹に腫瘤(しこり)がある
このような症状に気づいたら、便秘症だけでなく他の病気が隠れていることもありますので医療機関を受診するようにしてください。
慢性便秘症の治療
まずは薬を使わない便秘改善の方法についてご説明します。
1.食べ物
まず、食物繊維の摂取量が少ない人は食物繊維の量を増やしてみましょう。
食物繊維の中でも米や豆類由来のものが日本人の便秘には効果的と言われています。
その他、キウイフルーツ、プルーン、オオバコや、ヨーグルトなどの乳酸菌食品も便秘に効く食べ物です。
持病やアレルギーなどで食事制限のある方でなければ、積極的に摂ってみてはいかがでしょうか。
2.水分
今までの研究結果によると、どうやら水を飲むだけで便秘が改善するわけではないようです。
ただし食物繊維+水分(平均2Lほど)を行うと排便回数が増えるとの報告もあります。
少なくとも脱水にならないように、適度な水分摂取を心がけましょう。
3.運動
有酸素運動や腹壁マッサージなどが便秘に効果がある、と言われています。
また、普段から体をよく動かしている人ほど、食事療法が効果的であるとの研究結果もあるようです。
4.プロバイオティクス
最近よく耳にする「プロバイオティクス」、これは、人の体の健康を守るために腸で有益な働きをする細菌や酵母のことです。
食品で言うとヨーグルトや乳酸菌飲料、味噌、キムチ、ぬか漬け、納豆などの発酵食品に含まれています。
プロバイオティクスの摂取は安全に便秘症を改善する、として近年その有効性が期待されています。
意識して摂取してみても良いかもしれません。
便秘の治療薬
次は便秘に対して使われるお薬について、その効果毎に種類分けしてご説明します。
1.膨張性下剤
体内に吸収されず、水分を含むことで膨らみ、食物繊維と同様に自然に近い作用で排便を促すお薬です。
強力な作用はありませんが、習慣性がなく安心して使用できる薬です。
種類としてはカルメロース®︎、ポリフル®︎などがあります。
2.浸透圧性下剤
腸内に水分を引き込むことで便を柔らかくし、排便を促す薬です。
酸化マグネシウム(マグミット®︎)、ラクツロースシロップ®︎、ソルビトール、ジオクチルソジウムスルホサクシネート(DSS)、モビコール®︎などがこれにあたります。
酸化マグネシウムに関しては、高齢の方や腎不全の方は高マグネシウム血症の出現に注意が必要です。
3.刺激性下剤
大腸を刺激することで大腸の動きをよくし、排便を促す薬です。
種類としてはセンナ(アローゼン®︎・センノシド®︎・プルゼニド®︎・ピムロ®︎)、ピコスルファートナトリウム(ラキソベロン®︎)などがあります。
便秘に効果的ではあるのですが、近年必要最低限の使用が望ましい、とされている薬です。
その理由としては、長期間使うことで、大腸が自ら動く力が弱まり、その結果徐々に薬が効きにくくなり、薬の量が増えてしまうこと、また大腸粘膜が黒く変色してしまう(大腸メラノーシス)ことなどが挙げられます。
良い薬ではあるので、連続で使用しない(屯用で使う)、短期間での使用にする、など工夫して使用することが推奨されています。
4.粘膜上皮機能変容薬
これは便秘症の薬としては比較的新しい種類の薬です。
2012年に登場したアミティーザ®、2017年に登場したリンゼス®がこれにあたります。
大腸の壁(粘膜上皮)に作用して水分を腸内に引き込むことで、浸透圧下剤同様、便を軟らかくして排便を促す薬です。
マグミット®と比べると、高マグネシウム血症の心配がないこと、また便秘の症状改善効果が強いことが知られています。
リンゼス®については、大腸の神経が感じる「痛覚」を抑えることで腹痛を改善する効果があります。
そのため過敏性腸症候群の便秘型で腹痛を伴う人に向いています。
5.胆汁酸トランスポーター阻害薬
グーフィス®という薬がこれにあたります。こちらも新しい種類の薬です。
肝臓でつくられる胆汁酸(=胆汁)という消化液には腸内に水分を分泌させ、さらに大腸の動きを促す働きがあります。
この胆汁の再吸収を抑えることで、胆汁の量を増やして排便を促します。
6.漢方
大建中湯や大黄甘草湯、防風通聖散、麻子仁丸など、便秘に適応のある漢方は何種類もあり、患者さんの症状や体の状態に合わせて使用する漢方を選択していきます。
漢方だからと言って副作用がないわけではないこと、また他の薬との飲み合わせにも注意が必要です。
「大黄(だいおう)」はセンノシドと同じ部類の成分が含まれています。
センノシドと同様に大腸を刺激し、大腸の動きを良くします。
「大黄甘草湯」「桃核承気湯」「麻子仁丸」に多く含まれています。
「大黄」だと腸への刺激が強過ぎてしまう場合は「山椒(さんしょう)」がメインの「大建中湯」を使用することもあります。
「芒硝(ぼうしょう)」や「麻子仁(ましにん)」は便自体に水分や油分を引き込んで柔らかくしてくれる効果があります。
マグミットなどの浸透圧性下剤と同じ効果が期待されます。
どちらも基本的には「大黄」とセットで調合され、前者は「桃核承気湯」や「防風通聖散」、後者は「潤腸湯」や「麻子仁丸」などに含まれています。
また、「甘草(かんぞう)」や「芍薬(しゃくやく)」は腸の動きを整えてくれる効果があります。
「大黄甘草湯」や「防風通聖散」、「桂枝加芍薬甘大黄湯」などに含まれています。
いかがでしたでしょうか。
若年の方ではまず食生活や運動習慣の見直しが大切ですが、ご高齢になってくると薬なしで快便、というのはなかなか難しいかもしれません。
時には薬に頼りながら、よりストレスの少ない生活を目指せたらいいですね。
便秘にお悩みの方の手助けになれば幸いです。
それでは、また。
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