最期を迎える場所
突然ですが、みなさんはご自身が最期、息を引き取る場所について考えたことはありますか?
交通事故など急死でない場合、病死つまりいわゆる寿命だとして、どこで亡くなりたいでしょうか?
100%自分の希望通りにはならないかもしれませんが、私自身は自宅がいいかなと思っています。
ただ、自宅で亡くなるにしても、さまざまな医療・介護サービスの導入が必須ですし、何より一番身近で看護・介護してくれる家族にもそれなりの負担がかかります。
息を引き取る場所の選択肢としてどんなところがあるのか、それぞれのメリット・デメリット、選び方などについて解説したいと思います。
看取り場所の選択肢
大きく分けると、医療機関(入院)か、自宅等(老人ホーム・サ高住等介護施設含む)かの2つがあります。
or
医療機関は、一般の入院のほか、看取り・緩和ケアを専門とした緩和ケア病棟もあります。
自宅等では、終末期との診断を受けたあとも、これまで過ごしてきた自宅・老人ホーム・各介護施設で過ごし、最期を迎えることになります。
入院していたものの、終末期という診断を受け、最期は自宅でということで退院するケースもあります。
老人ホーム、介護施設では看取り不可というところもあるようですので、だいぶ具合が悪いのに出ていかないといけない、次の滞在先を探さなければいけないということにならないよう、確認をしておく必要があるでしょう。
ではそれぞれについて解説していきます。
一般病棟
一番のメリットはやはり、医師・看護師が常駐しており、何かあればすぐ対応してもらえることでしょう。
ただ、他にも色々な患者さんが入院しています。
大部屋のこともあるでしょうし、モニターアラームが頻繁に鳴っていたり、具合が悪く夜中も処置を受ける患者さんのために電気がついていたり、ゆっくり過ごせない可能性があることが一番のデメリットでしょう。
特に高齢の患者さんだと、慣れない場所のためせん妄(場所、環境を正しく認識できず不穏状態になってしまうこと)をきたし、昼夜逆転したり、暴れてしまって身体抑制といってベッドに縛られてしまうこともあります。
緩和ケア病棟
最期の時間を過ごす患者さん専門の病棟です。
原則、がんまたは後天性免疫不全症候群の患者さんに限られますが、医師・看護師等により必要な医療を受けつつ、食事・入浴・排泄・清潔ケアなど介護面でもスタッフが充実したサポートをしてくれます。
一般病棟に比べ静かで、緩やかな時間が流れます。
せん妄のリスクは一般病棟より低いですが、慣れない環境だとどうしても一定の割合でせん妄が起こってしまいます。
面会制限はあまりないことが多いですが、自宅と違い、家族と常に一緒にいるというのは難しいでしょう。
緩和ケア病床数は全国的に充足しているとはいえず、希望してもすぐには入れず空き待ちをする必要がある場合もあります。
自宅
住み慣れた、生活し慣れた場所であること、残り少ない最期の時間を家族と一緒に過ごせるのが最大のメリットです。
本人にとって環境面では一番ストレスが少ないでしょう。
訪問診療・訪問看護のほか、ヘルパー・訪問入浴など、さまざまなサービスを利用する必要がありますが、ケアマネージャーがコーディネートしてくれることが多いでしょう。
各種サービスを使うといえど、一番の看護・介護者は家族になります。
一人である必要はありませんが、それなりに負担がかかります。
本人としては看病してくれる家族のことを思うと、負担をかけたくないと思うのは自然な心理でもあります。
体調変化があった際は介護者である家族が気付き看護師・医師へ連絡する必要があることが入院と異なる点ですが、当院では訪問看護ステーションと連携しながら何かあればすぐに連絡が取れ、必要に応じて訪問できる体制を採っています。
介護施設(サ高住など)
基本的には自宅と一緒です。
ただ、介護者である家族と一緒に住んでいるわけではないでしょうから、常に一緒に過ごすということはできません。
自宅と比べ、毎日朝から晩まで一緒にいるのも難しいでしょう。
施設によっては、訪問診療・訪問看護・各種介護サービスを利用することになりますが、入院や自宅と違って、常に誰かがそばにいるわけではありませんので、何かあったときに気がつくのが遅れる可能性はあります。
とはいえ入院と違い住み慣れた環境なので、環境面でのストレスは少ないでしょう。
どう選ぶか
一番はやはり本人の希望が大きいと思います。
手厚い医療を受けられ、常に医療者が近くにいる安心、つまり入院を選ぶか、訪問診療・訪問看護などを利用しながら慣れた環境や家族との時間を選ぶかになります。
また、在宅での看取りを希望する場合、家族である介護者に体力的・精神的余裕がある必要があります。
とはいえ過度に背負いこむ必要はなく、さまざまな専門職に頼りながら、任せられるところは任せればいいのです。
ちなみに在宅での看取り、つまり訪問診療でも終末期に出てくる痛みや苦しみを取り除く治療、緩和ケアを行うことができます。
飲み薬や坐薬、注射薬による鎮痛薬の調整や、必要に応じて自宅に酸素を導入して吸入してもらうこともできます。
疾患にもよりますが、特にご高齢になればなるほど、最期には痛みや苦しみが少ないことが多く、眠るように亡くなっていく方も多いように感じています。
金額に関しては、疾患や、受けるサービス、その期間などによるので一概にはいえませんが、基本的には医療保険、介護保険が使えますし、場合によっては高額医療の適応にもなるでしょう。
看取りの実情
数年前の全国調査で、6割弱の人が最期の場所は自宅がいいと思っているという結果が出ていました。
しかし、現実としては、8割の人が病院で亡くなっている、つまり自宅等で亡くなっている人は2割程度に過ぎないということです。
これには交通事故など予期せぬ死亡も入っているので、がんや心不全などの終末期の患者さんに限ると、病院で亡くなっている割合はもう少し少ないとは思います。
それを加味しても、自宅で最期を迎えたいという希望を十分に叶えられていないのが現実です。
介護者の体力的・心理的な問題や、デリケートな問題だけに介護者・家族と十分な話し合いができていなかった、急な体調変化で救急搬送・入院になったきり退院できなかった、などがその要因として考えられます。
最後に
終末期だという診断はいつ受けるかわかりません。
特にがんは末期にならないとなかなか症状として表れないことも少なくなく、高齢になるほどそれは顕著です。
生来健康で、最近食欲が落ちてきたなと思って検査をしたら終末期だと言われたということも実は珍しくありません。
いざとなってからだと気持ちにも体力にも余裕がなく、家族と十分に話し合いができないことが多いです。
自分の身体のことですし、一人で決められることでもありません。
そうなる前に、看取りの場所の希望や、食べられなくなってきたときの胃瘻など代替栄養の希望、急変時の心臓マッサージや人工呼吸の治療の希望など、あらかじめ話し合っておくことが大切です。
病状に応じて希望もかわるでしょうから、こういう話ばかりする必要はありませんが、思い出したら気軽に話し合える関係性を築いておきたいものです。
また、在宅での看取りに対応している医療機関としては、終末期の患者さん、ご家族に自宅にいても安心してもらえるように、今後の起こりうる体調変化やその時の対応についてあらかじめご説明したり、不安な点を傾聴したり、些細なことでも気軽にご相談いただけるような関係性を築いていきたいと思っています。
在宅での看取りについて何か気になることがありましたらお気軽に当院までお問い合わせください。
それでは、また。
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