終末期の点滴
みなさん、こんにちは。
今回はまた重い話題になります。
が、大事なお話ですので、分かりやすく解説していきたいと思います。
終末期、つまりもうそろそろ亡くなる、お看取りになることが分かっている場合、最期に点滴をしていたほうがいいかどうか?というお話になります。
今回、俎上に載る患者さんは、若い方や入院中にお看取りになる方ではなく、主にご高齢の方で、癌、肺炎、老衰などで在宅(施設含む)でお看取りになる患者さんです。
つまり亡くなることがある程度予想がついている患者さんについてのお話になります。
交通事故や突然の病死でない場合、癌、肺炎、老衰などで徐々に体力が奪われ、寝たきりになり、食欲が落ち、最期は意識レベルや血圧が下がり、息を引き取ります。
食欲が落ちていく段階で、いずれ食べ物や水分をほとんど摂取できなくなるタイミングがきます。
そうなる前に、もし希望があるならば、胃瘻や中心静脈栄養といって、本人の生理的意欲に逆らい半ば強制的に栄養や水分を投与する方法もあります。
その希望がない場合、食べ物や水分をほとんど摂取できなくなった時、点滴をしたほうがいいかどうか?という議題です。
点滴とは何か
前提条件のお話が長くなりましたが、まず、点滴とは何ぞや?というお話をします。
点滴とは、静脈内や皮下(皮膚のすぐ下)へ、細い専用の針(カテーテル)を使って、主に水分を投与することをいいます。
しかしその内容は様々で、電解質や栄養、抗生剤の成分や胃薬の成分、眠剤の成分などなどが水に溶かされて点滴製剤としてお薬として用意されています。
普段自分の口から摂取している水分・栄養・内服薬が飲めない場合に、水に溶かしたそういった点滴のお薬が使われます。
ぽたぽたと点のように垂れて投与されていくので、点滴と言うのですね。
色々な成分が混ざっているものがあるわけではなく、それぞれの飲み薬に対応した点滴のお薬がある、というイメージです。
ただし全ての飲み薬が点滴製剤で用意されているわけではありません。
くどくなりましたが、在宅で言う「点滴」は、おもに水分+電解質の補給のことをいいます。
中心静脈栄養をしている方は栄養分=カロリーが入れられたり、がんばれば抗生剤の点滴も在宅でできないことはないですが、あまり頻繁に行われるものではありません。
ですので、在宅でできる点滴は、せいぜい水分補給程度だということです。
その水分補給の点滴にはナトリウムやカリウムなどの電解質はある程度含まれていますが、水道水、スポーツドリンク、経口補水液を飲むのと内容としてはあまり変わりません。
また、病院と違って在宅では、訪問看護の対応頻度も考えると1日で500ml〜多くて1000ml程度の点滴量になります。
点滴の適応
では一般的に点滴は、どういう場合に行うでしょうか?
簡潔に言うと、何らかの原因により「一時的に」経口摂取ができない場合に、その原因が取り除かれ経口摂取ができるようになるまでの間、行うのが一般的です。
例えば、大きな手術をします、そのため数日間、経口摂取ができません、病状が回復して経口摂取ができるようになるまでの数日間、水分補給の点滴をします。
例えば、コロナにかかりました、ひどく体調が悪く、ほとんど経口摂取をする気が起きません、コロナが治ってまた経口摂取できるようになるまでの数日間、点滴をします。
という具合です。
注意したいのは、「点滴をしたから改善した」わけではないことです。
経口摂取ができない原因がはっきりしており、それが回復する目処が立っている際に、よくなるまでの期間、水分補給として点滴をするのです。
ようやく話が戻りますが、主にご高齢の方で、癌、肺炎、老衰などで在宅でお看取りになる予定の方で、いよいよ食べ物や水分をほとんど摂取できなくなった時、さて、点滴をしますか?
経口摂取ができなくなった原因はある程度はっきりしているものの、手術やコロナのケースと違い、「改善の目処」は立ちません。
もちろん改善する可能性は0だとは言い切れませんが、基本的には亡くなるまで、病状は下行の一途をたどり、改善しないことが大半です。
点滴をしたから元気になってまた食べられるようになる、ということは残念ながらほぼありません。
つまり、この場合、点滴をする「目的がない」ということになります。
亡くなる間際、極力苦痛がないように緩和ケアを行う上で、何のために点滴をするのかがはっきりしない、ということです。
では次に、点滴をするメリット・デメリットについて解説します。
点滴のメリット
一番のメリットとしては、ご存命の期間をある程度延長することができる、という点です。
人間は水分がなければ生きていけません。
口から摂取できなければ、外部から点滴という形で水分投与をしてあげれば、1-2週間程度は延命ができる可能性があります。
ただし、最期にある程度苦痛を伴っているのであれば、その期間を延長してしまう可能性があるという側面もあります。
もう1点挙げるとすると、経口摂取ができないと脱水が進みますので、喉が乾く、口が乾く、という症状が出ることがあります。
その場合、点滴で水分補給をすることで、多少症状が緩和される可能性があります。
ただし、喉が乾く、口が乾くという症状は、口腔内をこまめに湿らせてあげるといった方法で対処も可能で、点滴だけがその症状を改善する方法ではありません。
点滴のデメリット
一番のデメリットとしては、特に心臓や肺に病気がある方、心臓や肺が弱っている方に関しては、点滴により体内の水分量を増やしてしまうと、心臓が悲鳴をあげ、肺が水浸しになります。
特に肺炎をきたしていると、点滴によって痰が増えたり胸水が増えたりして呼吸苦が増悪する可能性があります。
これは終末期の身体にとっては芳しくないこと、むしろ極力避けたいことの一つです。
また、在宅では病院と違って、点滴の針を入れたままにするのもなかなか難しいため、点滴をするたび、毎日毎回、その針を交換する必要があります。
針が刺さる痛みは一瞬ですが、それを亡くなるまで毎日毎回経験しないといけないのはデメリットと言えるでしょう。
点滴が漏れて針が入っていた腕の部分が腫れてしまったり、長く針を入れたままにしていればそこから細菌感染を起こすこともあります。
それからお金のことになってしまいますが、在宅で点滴をするとなると、訪問看護の手が必要になります。
それも点滴をするたび、基本的には開始時と終了時、看護師が対応します。
あと数日などと分かっていれば別ですが、お看取りになる時期はなかなか予想がつかないものです。
いつになるかわからないまま、そうした医療費負担が増えていくのも、決して侮れないデメリットでしょう。
自然な形がベスト
経口摂取ができなくなってきたということは、老衰が進み、体力や気力が落ち、身体が水分すら受け付けないという状態になっているからに他なりません。
何かしてあげたいという気持ちはとてもよくわかるのですが、終末期の身体に半ば強制的に水分を投与するというのは、かえって身体の負担を増やしてしまう可能性があります。
実際の臨床現場ではここまで詳しくはお話しできませんが、かいつまんで点滴のメリット・デメリットを説明するようにしています。
それなら点滴はせず自然な形で、と同意いただけることが多いように思いますが、それでも点滴してほしいというケースもあります。
それでもと言われれば極力その希望を優先するようにしていますが、もしやるのであれば、患者さんの身体の負担、症状の増悪などがないかよく観察しながら、デメリットが大きく出ていそうであれば点滴量を減らしたり、中止の判断をすることもあります。
いかがでしたでしょうか?
1. 在宅でできる点滴は1日500ml程度の水分補給が主であること
2. 水分だけでも摂れていれば点滴の必要はないこと
3. 終末期における点滴は身体の負担を増やすことに繋がり、メリットは多くないこと
4. 終末期においては点滴をせず自然な形でみていくのが一番よいだろうこと
を解説してきました。
いざという時の参考になりましたら幸いです。
さて、今年も残りわずかになりました。
次の投稿は来年になるかと思います。
引き続きより良い在宅医療を提供できるように、今年の残りの期間も、新年からも精進していきたいと思います。
お餅を喉に詰まらせないように、良いお年をお迎えください。
それでは、また。
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